大判例

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横浜地方裁判所 昭和25年(ヨ)11号 判決

申請人 久瀬川禧之恭 外一名

被申請人 三菱化工機株式会社

一、主  文

申請人等の申請を却下する。

申請費用は、申請人等の負担とする。

二、申請の趣旨

申請代理人は、「申請人等が被申請会社の従業員たる仮の地位を定める。」との裁判を求める。

三、事  実

訴外旧三菱化工機株式会社(以下単に旧会社という)は、化学機械の製造を目的とし、川崎、横浜、船橋の各所に工場を有する株式会社で、申請人久瀬川は昭和十四年四月右会社の川崎工場に検査工養成工として入社六箇月の養成期間をすぎて、検査工となり、昭和二十年三月、当時日給金一円三十銭であつたが、同月応召外地に派遣され、終戦後はシベリヤに抑留されて、昭和二十四年八月十一日帰還した。また申請人渡辺茂は、昭和十七年一月設計課技師補として、右会社川崎工場に採用され、同年十二月技手となり、同二十年二月当時本俸五十一円その他手当の支給をうけていたが、同月応召、外地へ派遣され終戦後はシベリヤに抑留され、同二十四年十月三日帰還した。しかして右旧会社は特別経理株式会社として指定され、被申請会社は右旧会社の決定整備計画に基いて、その第二会社として、昭和二十四年九月一日設立せられ、企業再建整備法により、旧会社の新勘定に所属する資産の出資をうけ、指定時(昭和二十一年八月十一日)後旧会社の新勘定の負担となつた債務を承継し、従つて、被申請会社は旧会社とその従業員との間の雇傭関係をも当然承継したものであるから、申請人等は被申請人の従業員である。しかるに被申請人は申請人等の従業員たることを否認するので、申請人等は、被申請人に対して申請人等が被申請人の従業員たることの確認の訴を提起しようとするものであるが、右本訴の確定までには時日を要すべく被申請人よりの給料を以て、唯一の生活の資としている申請人等はその間被申請人から何等給料等の支払を受け得られないことによつて、生活に脅威を与えられ、囘復し得ない著しい損害を蒙りつつあるので、仮りに申請人等が被申請人の従業員であることの地位を定められたく本件申請に及んだと述べ、被申請人の抗弁に対し(一)、昭和二十四年七月十九日申請人等の家族に対して申請人等を退職せしめる旨の通知のあつたこと、同年八月二十日申請人久瀬川に対し、解雇通知があつたこと、申請人渡辺の母親に対し、同年九月八日予告手当を支払い、同年十月七日渡辺が退職手当残額を受けとつたこと、及び被申請人がその主張のような休職及び退職につき定めをしたことはこれを認めるが、被申請人の為した解雇の意思表示を受け取つた申請人等の家族が解雇の意思表示を受領する代理権を申請人等から与えられていたとの事実、その他被申請人主張の事実は否認する。仮りに申請人等の家族に解雇の意思表示を受領する代理権がありとしても被申請人がした解雇の意思表示は次の理由により無効である。すなわち昭和二十年十二月十七日、旧会社の川崎製作所従業員は三菱化工機川崎労働組合(以下組合と称する)を組織したが、当時会社の利益代表者を除く全従業員は反対の意思表示がない限り、組合員となる旨の決議をなしたから、この時において反対の意思表示をしなかつた申請人等はその組合員となつた。更に同二十一年五月十八日組合と旧会社間の労働協約において従業員は原則として労働組合員たることを定め、同年十月十八日の協約では、会社の従業員は組合の承諾した者を除いてはすべて組合員であり、組合が除名した者は会社は直ちに解雇するものと定めているし、昭和二十三年三月十八日附の労働協約(その有効期間は一箇年であつたが双方協議の上昭和二十四年七月三十一日まで効力を延長した)では、その第二条に「会社の従業員は左の者を除いては組合員とならなければならない」とあつて、所謂ユニオンシヨツプの規定があり、これによつて従業員は当然組合員となつた。仮りに申請人等が右のように、当然組合員とならなかつたとしても、申請人久瀬川は昭和二十四年八月十八日、申請人渡辺は同年十月七日組合加入の意思を表示し組合員となつたものである。しかるに前記昭和二十三年三月十八日附の労働協約第十七条に「会社は組合員の解雇については、予め組合の諒解なしには行わない」と定めてあり労働協約の諒解事項として組合と旧会社との間に取り交わした覚書第四項には右第十七条の「諒解なしには」とは「同意なしには」との意味であることを明かにしている。更にまた旧会社の就業規則第十四条乃至十六条には従業員に一定の事由があるときは会社は解雇しうることを定め、その第十七条には「従業員が組合員である時は会社は予め組合の諒解を得て解雇を行う」と定めている。しかして就業規則は労働協約とは別箇独立の手続によつて定められ、これと従属関係に立つものでないから、右労働協約が失効しても、就業規則は当然その効力を失わない。しかるに申請人等は前記のように右組合の従業員であるにかかわらず前記各解雇の意思表示は、組合の同意なくして行われたものであるから無効である。仮りに申請人等が組合員でないとしても、組合と会社間の労働協約がすべて四分の三以上の従業員に適用されているから、労働組合法第十七条により、申請人等にも右労働協約は適用され、組合の同意なくして会社は申請人等を解雇することができないものである。更にまた被申請人は昭和二十四年七月十九日申請人久瀬川に対し解雇通知をなしたので、組合では直ちに神奈川県地方労働委員会に提訴し、同年八月二十三日同委員会の勧告を受けたが、被申請人はこれを承諾せず被申請人は委員会に事件繋属中一方的に未復員者の解雇を強行したのであつて、これは労働関係調整法第四十条に違反し、無効である。

(二)、旧会社が昭和二十四年四月一日附で、未復員者はすべて休職とすることに決定し、休職期間は一年とし、その間に復職の通知をうけなかつた者は、休職期間の満了によつて退職となることを定めたこと及び旧会社から申請人等の家族にその旨の通知があつたこと、並に復職の通知がなかつたことはこれを認めるが、右は一種の就業規則の変更である。しかるに就業規則の作成、変更は労働組合の意見聴取、官庁への届出その他の手続を要するのであるにかかわらず右休職、退職の定については、右のような手続を経ていないから右定はその効力がない。従つて申請人等は被申会社を退職したことにはならないと述べた。

(疎明省略)

被申請代理人は主文同旨の判決を求め、旧三菱化工機株式会社が申請人等主張のような株式会社であつて、申請人等が右会社の川崎工場の従業員であり、その主張のような経歴を有し、その主張の日に帰還したこと、被申請会社が旧会社の第二会社として、その新勘定に所属する資産の出資を受けたことは認めるが、申請人等主張のその余の事実は全部これを否認する。申請人等は次の理由により現在被申請人の従業員ではない。

(一)、旧会社は昭和二十四年七月十四日、申請人等未復員者全部を退職せしめることに決定し同年同月十九日申請人等の代理人であるその家族に解雇の通知を為した外申請人久瀬川に対しては同年八月二十日再度解雇の通知をなし、また申請人渡辺については、同年九月八日その代理人である同人の実母が被申請人を訪れ退職を承認の上予告手当を受領し、右渡辺は更に帰還後である同年十月七日被申請会社を訪れ退職を承認したものである。仮りに右家族において解雇通知につき、申請人等を代理する権限がなかつたとしても申請人等は帰還と同時に右解雇通知を了知したものであつて申請人久瀬川に対しては帰還の日である昭和二十四年八月十一日、申請人渡辺に対しては同年十月三日右解雇の効力が生じた。

(二)、そうでないとしても、旧会社は昭和二十四年一月一日附で、未復員者はすべて休職とすることに決定し、休職期間は一年とし、その間に復職の通知をうけなかつた者は休職期間の満了によつて退職となることを定め、申請人等未復員者の代理人である家族に通知した。よつてこの規定により未復員者である申請人等は、同年十二月三十一日を以て退職となつた。申請人等の再抗弁に対し、昭和二十年十二月十七日旧会社の川崎製作所従業員が三菱化工機川崎労働組合を組織し、当時申請人等主張のような決議がなされたこと、昭和二十一年五月十八日、同年十月十八日及昭和二十三年三月十八日組合と旧会社との間に締結せられた労働協約に夫々ユニオンシヨツプの規定があること、右昭和二十三年三月十八日附の労働協約、及びその覚書、就業規則等に解雇に関しその主張のような文言の規定があること、右昭和二十三年三月十八日附の労働協約が当初有効期間を一箇年と定められたが、双方協議の上昭和二十四年七月三十一日まで効力を延長せられたことはこれを認めるがその他の申請人等の主張事実は全部これを否認する。昭和二十年十二月十七日右組合結成当時申請人等は未復員で、当時未復員者は除外して組合が結成されたものである。その組合規約第十一条には会費納付の義務を定め、第二十条には会議成立の定員を定め「長期欠勤者・長期出張者を除く」その除外規定があるに反し、未復員者には何等定なく、規約の変更は大会出席者の四分の三以上の賛成を要する旨の規定があり、当時百数十名の未復員者があつたことからすれば、未復員者を組合員とすれば、総会は常に不成立とならざるを得ないから、これによつても、未復員者は組合員から除外したことが明かである。また労働協約中にユニオンシヨツプの規定があつても、これによつて従業員は当然組合員となることなく、組合加入の意思表示をまつて初めて組合員となるべきものである。更にまた前記就業規則第十四条乃至第十七条の規定は、前記昭和二十三年三月十八日締結の労働協約を前提としてなされたものであるから、右協約が昭和二十四年七月三十一日失効するとともにその効力を失つたものである。尚労働協約及び就業規則において規定した解雇に関する定はいずれも、雇傭主である旧会社に組合の同意ないし諒解なくして、組合員の解雇を行わない旨の債務を組合に対して負担せしめるに過ぎず、これに違反して会社が解雇をなすも解雇の意思表示は無効といい難い。

と述べた。

(疎明省略)

四、理  由

申請人等が旧会社の従業員であつたこと及び被申請人が申請人主張のような特別経理株式会社である旧会社の新勘定に所属する資産の出資を以て、昭和二十四年九月一日設立された第二会社であることは、当事者間争ないところである。申請人等は右第二会社である被申請人がその旧会社の新勘定に属する資産の出資をうけた以上、当然指定時後(昭和二十一年八月十一日午前零時)新勘定の負担となつたすべての債務を承継するから、旧会社と従業員との間の雇傭関係その他の権利義務は、第二会社たる被申請人に承継されると主張するが、特別経理会社と第二会社とは別箇独立の会社であつて、ただ企業再建整備法第十条は特別経理株式会社が新勘定に所属する資産の全部又は一部を出資する場合においては、その債権者を保護する必要上第二会社は指定時後特別経理株式会社の新勘定の負担となつた債務を承継する旨規定したものと解すべく、従つて第二会社の負担すべき債務は、既に、具体的に発生した債務に限られ、雇傭関係のように将来継続する権利義務の関係は当然これを承継するものというを得ない。しからば申請人等と旧会社の雇傭関係は法律の規定によつては当然第二会社である被申請人に承継せられず結局申請人が本件申請を以て保全せんとする請求はその疏明がないこととなる。しかしてこの場合保証を以て、これに代えることを相当としないから、申請人等の本件申請は爾余の点を審査する迄もなく理由なきものとして、これを却下し、訴訟費用は敗訴の申請人等をして負担せしめ、主文のように判決した。

(裁判官 牧野威夫 荒木大任 草野隆一)

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